痺症(ひしょう)と按摩療法(あんまりょうほう)Ⅰ

◆指をつくる         

             片倉武雄

 按摩の修行をはじめて、まだ日の浅いころ。目の前に将棋盤のような木の板を出されて「これを毎日2時間圧(お)して、指をつくりなさい。」と言われた。

昔は見習いは、鍼には浮きもの通し・固もの通し、灸には和紙にすえるなどを十分できるようになって、初めて人の体に触らせてもらえるようであった。

按摩にも、なにがしかの練習方法があるのだろうと、想像していたが、まさか木の板を渡されるとは思ってもいなかった。

そのときは、ずいぶんつき放された感じがした。また、「大変な世界に入ったな。」とある種の感動をしたのを覚えている。

今から考えると、これからこの世界で生きることへの覚悟、質的変換を迫られていたのであろう。

 木の板を圧すのが、良い練習方法かどうかはいささか疑問ではあるが、先人達は畳を揉んだり、座布団の上に鉄火箸を置いて圧しりたして、だれでも多少はそのような経験をつんで、指をつくったようである。

自分の治療院では、さすがにそんな方法はとっていないが、毎日2時間は先輩体を借りて練習をさせるようにしている。

体を貸すのを台になるというが、これは、はたで見ているほど楽なものではない。

半人前のへたくそに揉まれると、かえって具合が悪くなることも、しばしばあるからだ。 按摩師や指圧師は、手とくに親指が大変重要な道具である。

一流の職人がいい道具を持つように、按摩指圧師もプロの指が必要になる。それには素人の指から、プロの指に鍛え直さなければならない。

30kgくらいは、親指に体重をかけて治療し、それも、安定して長時間耐えられるものでなければならない。

実際は、その強さで圧し続けるものではなく、その状態、部位、個人差により様々である。しかし、見習いのうちは、指の圧力が表面で分散して、中に入ってこないので、とにかく指を鍛えるのである。

指の親和性とでもいうものが問われる。並大抵のことではない。

指がはれて、ものが持てなくなることや、感覚がなくなることすらある。

それがある一線を越えると、今まで言われてもできなかったことが、できるようになったり、分からないスジが分かるようになったりしてくる。

何よりも患者の評価が違ってくる。ここでやっと入り口である。周囲の先輩たちも見ていて分かるようで、一人前扱いしてくれるようになる。

ベテランになると、指が変形している人もいる。